ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
現在地 トップページ > 分類でさがす > くらし > 妊娠・子育て > 教育 > 教育委員会 > 教育長雑感 「日々是好日」〈18〉

本文

教育長雑感 「日々是好日」〈18〉

記事ID:0021716 更新日:2021年10月28日更新 印刷ページ表示 大きな文字で印刷ページ表示 <外部リンク>

旅をする不思議な蝶アサギマダラ

花にとまっているアサギマダラの写真

令和3年10月28日

「私のお墓の前で泣かないでください。そこに私はいません……
千の風になってあの大きな空を吹きわたっています」(作詞作曲・新井満)
この歌を聴くと、私は思わず空を見上げて、胸がつまるのを感じます。会いに来てくれないかなあ、と思って顔が浮かぶのは亡き父や母ではありません。両親や祖父母は、むしろいつもご仏壇、お墓に居て私を見守ってくれていると思うからです。

千の風になって、大きな空を自由に飛んでいるだろう、と思える故人が私には何人かいます。その一人は、恩師の杉本秀太郎先生です。京都で一番大きな町家のご当主で、原稿に行き詰まると、素知らぬ顔でピアノを弾いていらっしゃった先生。自分からは全く事前運動もせずに芸術院会員になった、稀有の京都学派。何が専門かわからないほど博識で、京都とフランスをこよなく愛した仏文学者。僕の教え子に君がいてくれて、ほんまうれしい、とつぶやいてくれた先生。

先生とこの世で会えなくなって6年。私はこの秋を故郷の加西市で迎えました。東京にいた時分にいただいた先生の庭のフジバカマは、私と一緒に加西市に帰ってきて、私の小さな中庭で、何とものびのびと伸びやかに、風に揺られて咲いています。心の中で、そんなことをつぶやきながら、ちょっと遅めのコーヒーを飲もうかと中庭に出ました。

2021年10月16日、土曜日の午前8時半過ぎ、快晴、外気温21℃。
ふっとフジバカマの花に目をやって、コーヒーカップに手をかけた瞬間、私は慌ててもう一度フジバカマに目を凝らしました。
「あ~~~! も、もしかしてアサギマダラ?!」
信じられなくて、iPadの画面で写真を確認しました。
「間違いない!」 来た~! ついに来てくれた~! アサギマダラだ!!

杉本先生にフジバカマをいただく前から、海を渡って2000km以上も旅する不思議な蝶々のことが話題に上りました。名前のアサギは「浅葱」。青緑色の古称で、半透明の羽の色から付いた名前です。この大型の蝶々は、春になると北上して信州の高原や、ときには北海道にまで行って、涼しい土地で過ごします。そして秋になると、喜界島や台湾など南の暖地に渡りをします。

薄い羽根をゆらゆら揺らしてお花畑を舞っている蝶々が、本当にそんな遠距離を移動するのでしょうか? 何千キロも旅をすることが確認されているのは、今のところ世界に2種類しかおらず、一つは北米の「オオカバマダラ」。カナダで捕獲したオオカバマダラにラベルを付けて放したら、メキシコまで移動しており、イギリスまで飛んで行っている例も確認されたといいます。

もう一つの蝶、日本の「アサギマダラ」が旅をするらしいとわかったのは1980年頃です。全国の愛好家が、アサギマダラの羽の白い部分にマーキングを開始したのです。『謎の蝶アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』(kkベストセラーズ)の著者・栗田昌裕さんがマーキングした蝶が、喜界島や台湾で再捕獲されたのは有名な話です。蝶好きで知られる人は結構多く、生物学者の福岡伸一さんや解剖学者の養老孟司さん、ファーブル昆虫記の翻訳で知られる奥本大三郎さん、故鳩山邦夫代議士も蝶に魅せられた人で、むろん杉本秀太郎さんもその一人でした。

アサギマダラが好むヒヨドリバナやフジバカマなどの花は「ピロリジジンアルカロイド」という毒素をもっており、アサギマダラの雄はこの毒を原料にして性フェロモンを作っているのです。ですから、私の中庭に寄り道してくれたアサギマダラは、みんな雄ですね。
海を渡るとき、夜は海面に浮かんで休息をとるというアサギマダラ。羽を大きく広げても10cmに満たないこの蝶は、ときに羽をぼろぼろにしながら、なぜ海を渡るのでしょうか。高い高い空の上から、どうやって私のフジバカマを見つけて舞い降りてきてくれたのでしょうか?

「民輪クン、元気にしてるかぁ?」
「生きてると、不思議なことがいっぱいあって、おもろいやろ」
杉本先生の声が聞こえたような、幸せな土曜日でした。

加西市教育長 民輪 めぐみ

オススメ
  • 気球の画像
  • 紫電改の画像<外部リンク>
  • 播磨の国風土記の画像