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教育長雑感 「日々是好日」〈8〉

記事ID:0019807 更新日:2021年8月19日更新 印刷ページ表示 大きな文字で印刷ページ表示 <外部リンク>

移動する象の家族。その先頭を行くのは、どの象でしょう?

服部幸應先生の講演の様子

令和3年8月19日

7月末に、服部学園 服部栄養専門学校の理事長であり、校長でもある服部幸應(はっとりゆきお)先生に加西市民会館大ホールにお越しいただき、「食育を通した人間教育」と題して、教育講演会をしていただきました。

農林水産省「食育推進会議」の委員であり、「食育推進評価専門委員会」座長でもいらっしゃる服部先生は、食育の普及に尽力した功績により旭日小綬章を受章され、食の国フランスからは、ナポレオンが創設した国家褒章であるレジオン・ドヌール勲章も受章されています。多数の調理師や栄養士を育成されるとともに、「料理の鉄人」などに出演し、「SMAP×SMAP」などの料理監修などにも携わっていらっしゃる方、と言ったほうがわかりやすいでしょうか?

東京在住のころは、私が月刊「料理王国」の編集長をしていたこともあり、服部先生とはとても近しくお付き合いさせていただきました。世界に何十万とあるレストランのトップ50を選ぶ「世界のベストレストラン50」というアワードがあるのですが、2010年、2011年、2012年、2014年の4年間、世界最高のレストランとなったコペンハーゲンの店「ノーマNoma<外部リンク>」にも誘っていただきご一緒しました。​

服部幸應先生は、この日の2時間の講座を、まずレイチェル・カーソンの『沈黙の春』から始められました。「春が来ても、鳥たちは姿を消し、鳴き声も聞こえない。春だというのに自然は沈黙している」という衝撃的な名文で始まるレイチェル・カーソンのこの著書は、発売半年で50万部を売り上げ、多くの人に自然汚染や環境問題への関心を呼び覚ませました。

1907年にアメリカのペンシルベニア州の農家に生まれたレイチェル・カーソンは、幼少期から本を読んだり作文が大好きで、将来は作家になりたいと夢見る文学少女でしたが、当時、女性の教育は高校までとされ、大学は一部の裕福な家庭の子どものものでした。しかし、レイチェルの両親は借金をしたり私財を売って、成績優秀な娘を大学にいかせました。

1950年代になると、化学物質が原因と思われる生物の大量死があちこちでみられるようになります。アメリカの生物学者となったレイチェルはこの環境汚染に素早く気づいて、農薬や化学物質の危険性に着目。4年の歳月をかけて世界的な学者たちに協力を求め、研究調査して1962年に『沈黙の春』を発表しました。大手の化学肥料、農薬会社などからのバッシングにもあいましたが、当時のアメリカ大統領ジョン・F・ケネデディも注目したため、『沈黙の春』を契機に環境問題に対する一大ムーブメントが起きたのです。

服部先生は、『沈黙の春』を紹介した後、ESD(Education for Sustainable Development「持続可能な開発のための教育」)や第4次食育基本計画を踏まえつつ、日本の食糧自給率(アメリカやフランスが130%なのに比べて、日本は38%であること)、明治時代に北緯35度前後の日本が北緯50度前後のドイツの栄養学を取り入れて、高タンパク、高脂肪の食事をするようになった愚を、わかりやすくお話になりました。

何より会場400人の興味を引いたのは、10頭前後で移動する象の家族の、先頭を行くのは誰か? という問いかけだったかもしれません。会場からは「ボス象」「リーダー象」などの声が上がりましたが、先生はニコニコしながら「群れの先頭を行くのは、たくさんの経験を積み、知恵と知識を蓄えているおばあさん象なんですよ」と答えられました。どこにおいしい草があるか、この辺には敵がいるかいないか、愛する家族を安全に導くのはおばあさんの役目。赤ちゃん象にお乳を与えるのは母象ですが、教育をするのはおばあさん象なんですよ、とも付け加えられました。

食育とは、単に食事や食材の使い方、栄養価などについての教育に止まるのではなく、気候変動や資源の枯渇、貧困、家族問題などといった現代社会の課題を、一人ひとりが自分自身の問題として主体的に捉え、人類が将来にわたって恵み豊かな生活を続けていけるようにするための人間教育そのものなのです、と服部先生はよくおっしゃいます。Think globally, Act locally。世界を視野に置いて、身近なことから行動し始めようと思います。

加西市教育長 民輪 めぐみ

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