第15回「愛の詩」

佳作

題名/指
氏名/渡会 三郎


高級紳士服の仕立て専門店で――ピシッ、ピシッと小気味のいい音を立てて袖口を縫う老職人。あまりにも見事な針さばきに新入りの娘はつい尋ねてしまったのだった。

「その指、どうしたんですか?」

その人の右手は人差し指と中指、左手は親指と中指のみで他は欠損していた。シマッタ、余計なことを聞いてしまった……と瞬時後悔する娘に、しかし、その人は手を休めると、柔和な笑みを浮かべた。

「嬉しいよ。そんなこと、今まで誰も聞いてくれなかったからね。」

――昭和二十年の初夏。沖縄でガマと呼ばれる洞窟の中で自決用の手榴弾が爆発した。

「気がつくと、ガマの入り口に這いずり出てたんだ。振り向くと、硝煙と血の海さあ。頬の辺りにカンナの花が真っ赤に咲いていて、その葉で血の噴き出る手をくるんだんだよ。」

そのとき命は拾ったが、両親、兄弟と六本の指を失ったのだという。

――妻が首を傾げる。

「身体に障害を持つ人を見るたび、私はその人の顔を思い出すのよ。なぜ私に笑みを浮かべ、『嬉しいよ』と言ってくれたのかって」

妻の疑問に答えるかわりに私はその人の一針一針にガマの中で焼け死んだその人の家族を思い浮かべていた。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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