第15回「愛の詩」

優秀賞

題名/父の辿った道
氏名/石原 尚子


今年も父は八月六日にあの道を歩くのだろう。八十一歳になる父は毎年原爆の日に爆心地から逃げた道を辿るという。

私が父のこの恒例行事を知ったのは二年前のことだった。

その日、例年にも増して暑い八月六日。出かける用意をしていた父に「こんなに暑いのにどこに出かけるの?」と私が聞くと「毎年の恒例じゃけえ」「毎年ってどこに行くの?」不思議な顔を向けた私に父はその行事を語った。

「あの日、原爆が落とされた時、中学校から比治山まで逃げた同じ道を歩いとる。一緒に逃げた同級生や死んでしもうた仲間を思いながら同じ道を歩くんじゃ。」出かける父を見送りながら私は六十八年前のその場面を想像した。少年だった父が戦火の中を必死に逃げる姿を。両親を失い、傷ついた友を見送りながら一変した故郷の景色の中を逃げる姿を。父にとってこの行事は自分へのけじめ、そして死んでいった人達への供養なのだろうと思った。

私はこの時初めて故郷の過去の惨劇や父のこれまでの人生を考えた。戦争で両親を失い、必死で働き、妻そして子ども達を愛し養ってきた父。そんな父へ私は愛しさと感謝の思いで一杯になった。

今年も父は恒例行事に行くだろう。もし父が許せば今年は私も一緒にその道を歩いてみたいなと思う。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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