第15回「愛の詩」

愛の詩賞

題名/妻へ
氏名/奥田 登


あんさんと結婚したのは昭和三十年、大阪のおばちゃんの家の建て増しの四畳の部屋からだった。雨が降ると、トタン屋根がやかましかった。押入れもない部屋だったので、部屋の隅に柳行李を置いて衣類を入れ、果物屋さんから木の蜜柑箱を二つもらって来て横にして積み、上に什器下に鍋釜を入れて、あんさんは、埃よけに申し訳のようにカーテンを付けて、その上に布団を積んでいた。あんさんは、その部屋で内職の袋貼りをして貧乏所帯を助けてくれた。

あれから、何回も引っ越しをして五十五年が経った。子ども二人は巣立ってまた二人きりの生活になった。最近、あんさんは長い間の無理が祟って、腰の骨が左に曲がって痛む病気に罹り、整形外科に通っているが、はかばかしくはない。

この間、戯れにあんさんの背中を流した。あんさんは、「恥ずかしい。いやや。」と言ったが無理やり石鹸でこすったが、若い時よりは体も小さくなって骨ばっているのに驚いた。そのうちにあんさんは物を言わなくなって、クッ クッと背中で泣き出した。そして、蚊の鳴くような声で「わたし しあわせです」と言った。

あんさんには苦労させた。こんなことぐらいでそんなこと言わんでくれな。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

Page Top