第14回「愛の詩」

佳  作

題名/蛍のちょうちん
氏名/さとう こうせい


お母さん、覚えていますか?いつかの夏の夕涼みのことを。

お母さんに手を引かれて行った、あのきれいな小川のほとり。薄暗い闇の中に蛍が乱れ飛んで、それはそれは美しい光景でしたね。

私が、
「ねえ、ねえ、蛍のちょうちん、つくって、つくって」ってはしゃいだら、お母さんは器用に団扇で受けた蛍を、まあるく膨らませたガーゼのハンカチに入れてくれましたね。

「ホーホー蛍来い、あっちの水は苦いぞ、こっちの水は甘いぞ…」

一緒に歌ったお母さんの歌声、今でも耳に残っています。

お揃いの浴衣、紅い帯、そして下駄の鈴音、何もかもが嬉しくて、私は蛍のちょうちんを持ったまま、そこらじゅうを走り回りました。

そしてふと振り向いた時、なぜかお母さんの目に、うっすらと涙がにじんでいましたね。

「お母さん、どうしたの?どうして泣いているの?」って聞いたら、

「な、何でもないの。何でもないのよ。さあ、もう遅いから、蛍を岸に放して帰りましょう。」って言った横顔が、とても悲しそうで…。

あの遠い、遠い夏の日から、もう何年になるのでしょうか。

お母さん、ごめんなさい。何一つとして、お母さんのご恩に報いることができなくて。ただ、あの時のお母さんの涙のわけが、今では少し分かるような気がしています。

お母さん、教えてください。白いハンカチで蛍のちょうちんをつくったら、あのころにもどれますか?

お母さんが、たまらなくなるほど恋しい季節が、またやって来ます。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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