第13回「愛の詩」

佳作

題名/母が行った先
氏名/八代 穣


 ガラガラ、午後八時頃玄関の戸が開いた。二階の窓から覗くと、母が大きな荷物を背負い出かけるところだった。(どこに行くのだろう、こんな時間に)最近父と口論が絶えない母、私はふと不安になった。
 人の往来が途絶えた吹雪く夜道、私は母の後をこっそり追った。降る雪で見失いそうになる。三十分ほどたって街の大通りに出たが、母は急ぎ足で先を行く。しばらくして看板に『質屋』とある家に入った。(この家にどんな用事があるのだろう)私はまた不安になった。塀の陰で待機して約二十分、母は出て来たが空身だった。
 私は「お母さん!」といって飛び出したかったが、なぜか勇気がなかった。吹雪く中また母の姿を追って家に着いた時は、十時を過ぎていた。

 翌朝起きると、母はいつものように朝ご飯を作っていた。
「K子にS男、T子、PTA会費と給食代だったわね、はい、これ、ついでに今月のお小遣いもね、無駄遣いしちゃだめよ」
母は私たちを厳しい目で見て、お金の入った封筒を渡してくれた。

 私は中学の二年の社会科の授業で『質屋』の意味を知った。母は苦しい家計を、質屋通いでやり繰りしていたのだと思うと、私は自分の我儘を恥じた。

 五人の子供を育てるのに働きづめだった母…私は母が亡くなるまであの吹雪く夜のことは、聞くこともなく心の中にある。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

Page Top