第12回「愛の詩」

佳作

題名/気をつけてね
氏名/大嶋 つむぎ


「お母さんが救急車で運ばれた!」近所の方からの緊迫したメッセージを受けた私は、意外なほど冷静だった。
一人で美容院を切り盛りしている母は七十六歳。年相応の衰えはあるが、いたって健康そのもの。「まさか・大げさな」そんな言葉が頭をよぎり、駆けつけた救急病院で告知を受けた。「大動脈乖離です。心臓の大動脈の血管がはがれ、命の危険があります。緊急手術します」手術が終了したのは執刀から九時間半を超えた、明け方2時半だった。
生存率五十%以下という大手術を何とか持ちこたえた母だったが、全身はパンパンにむくみ、頭から足の先まで数十本の管が入っていた。
ようやく人工呼吸器がはずれ、少し目を開けるようになったのは二週間後だった。でも、私や娘の呼びかけにもまったく答えない。
「呼びかけてあげてくださいね」看護師さんに言われ、反応のない母に好きなハワイアンのCDを聞かせ「早く踊りたいでしょ?」など語りかけ続けた。
三週間が過ぎた頃、残業で夜の面会時間ぎりぎりに駆けつけ、五分ほど声をかけ、「じゃ、遅いからもう帰るね」といったとき、その声が聞こえた。
「気をつけてね」
か細いが、母の声だった。
それまで一度も泣かなかったが、もうだめだった。
母もぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
どんな状況にあっても母親は子供のことが心配だ。生死の境をさまよった母が初めて口にだした娘への思いやりの言葉に、私は母の愛を感じずにはいられなかった。

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

Page Top