第11回「愛の詩」

佳作

題名/オーバーのお尻
氏名/神田 佐伊(宮城県)


私があなたたちのお母さん、つまり私の妹と温泉旅行に行ったのを覚えていますか。

あのとき妹ははしゃいでた。

「やっとこうして、自分の楽しみの時間が持てるようになったんだねぇ」と。あなたたち二人が、それぞれ学校を卒業した年でした。

妹の足どりは軽く、スキップするように私の前に出た時です。その背を目にして、

「あらっ」私は思わず声をあげましたよ。

「A子さん、あなたのそのオーバー」

「ええ、どうしたの」

妹は何かがついているのかと、私の視線をたどって、背に顔を巡らしました。妹の視線が届くわけはないのです。

オーバーの尻。そのお尻の部分が丸く、布地が薄くなっていました。

女手ひとつであなたたちを育ててきた妹。交通費を節約するために、自転車に乗って仕事に出かけてた…。いったい同じオーバーを何年着続けるとそんなにお尻の部分がすれて薄くなるのか。

妹は言いましたっけ。

「あらあら、オーバー新調しなきゃね」

あの尻の薄くなったオーバーを、あなたたちは見ましたか。

あのオーバーを大事にとっていますか。

どんな言葉より、尻の薄くなったオーバーが物語っています。

あなたたち二人への妹の愛を。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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