第11回「愛の詩」

佳作

題名/左利きの笛
氏名/並木 可雄(静岡県)


ふるさとの祭りに、笛の師匠を想う。

はじめて手にした笛だった。吹き穴に口をつけ指穴を確かめてかまえると、みんなに変な顔をして見られた。いつものことだ。その持ち方が左右反対だった。

“ギッチョ”の僕は、学校で鉛筆を家では箸を、何回も何回も右になおされた。なにしろ、古い時代の田舎のことだから。だけど力を入れるときや、はじめて使う道具などは、やっぱり右ではうまくいかなかった。だから笛も左でやりたかったのだ。

「お前は左利きか?」

師匠にそう訊かれて、僕は「はい」と小声で返事をし、右に持ち替えようとした。すると師匠は、

「そのままでいい」そう言って「ここへきてみな」と、自分の前にすわらせてくれた。

ほんとに左でいいのかなあと、おそるおそる師匠と向き合うと・・・まるで鏡を見るように練習ができた!はじめてのことだった。

祭囃子の“笛吹き若衆”に選ばれた僕は、太鼓に調子を合わせ、しっかりと左にかまえて吹いた。見物人が拍手をしてくれた。少し離れたところに、笑顔の師匠もいた。

それからだ、僕の自信が大きくふくらんだのは─

今は右があれば左があるのは、当たり前のこと。オバマ大統領さえ左手でサインしている。僕も左利きの自分が好きだ。

あのとき、僕に「そのままでいい」と言ってくれた師匠は、いま思うと笛のことだけを教えたのではなかった。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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