第10回「愛の詩」

佳作

題名/父親へ
氏名/水木 亮(山梨県)


私はいまでもあの朝のことが忘れられません。

終戦後外地から引き揚げてきて、私の母親が過労で亡くなったのは私が四歳の時でした。あなたが失業したとき、中学生の私は新聞配達を始めました。急いでいた私は近道をしようと側溝を飛び越えた時、肩から提げていた新聞の束が滑り落ちてしまいました。側溝は昨夜の雨で増水していて、たちまち新聞の束が飲み込まれてしまいました。配達できなくなったずぶぬれの新聞を抱えて、みじめな気持ちで家に戻りました。

「とにかく学校に行け」あなたは一言そう言いました。その日は土曜日で、授業中も新聞店に苦情の電話が殺到することを思うと、私は勉強どころではなくもう いたたまれない気持ちでした。重い気持ちで帰宅した私に、「おい、アイロンかけておいたぞ。これから配達だ」

なんと百部はある新聞を、あなたは一枚一枚 アイロンをかけておいてくれましたね。

「ありがとう」私はそれを肩に表に飛び出しました。数日後いつも声をかけてくれるおばさんから、

「こないだの新聞は温かったね」と言われたとき、一生懸命アイロンをかけてくれたあなたを思い出し涙があふれました。ありがとうお父さん。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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