第7回「愛の詩」

根日女賞

題名/壱萬円の重み
氏名/丸山 紗代(兵庫県)


三十五年前の一万円。
大金だった。

近視の強かった私は高校の合格祝いとして、貧しかった家計の中から何とかメガネを買ってもらった。全く世の中が違って見えるほどそのメガネは素晴らしかった。
しかし、不覚にも私はそのメガネを自転車通学中に転んで壊してしまった。又買ってほしいとは、口が裂けても言えなかった。見えない日々は、苦痛であった。

ある日、担任に呼ばれた。
「見えてないだろ。メガネはどうした。買ってもらえ。見えなきゃ困るぞ。」
何も言えなかった。
又、呼ばれた。そして三回目に、担任は黙って封筒を差し出した。
「いつか返してくれたらいい。」
中には一万円が。唇かみしめながら、涙が出た。今思えば、担任は新婚だった。新妻の奥さんはなんと言ったのだろうか。それとも、担任の内緒のお金だったのだろうか。

思い出すたびに胸が熱くなる。物静かな人だった。あろうことか、私はそれからの人生に必死でいまだに一万円を返していない。なんという、ふとどき者だろう。
誰も知らない、担任と私だけの話である。

こんな頭の下がるような教師が今は少なくなった。自分のことよりも生徒のことを心から考え、思ってくれたあの優しい恩と愛を忘れることはできない。

先生、必ずお返しに伺います。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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