第5回「愛の詩」

佳作

題名/ふるさとに
氏名/光城 健悦(北海道)


列車が大沼公園を抜け、平野にでるとポッカリと遠景に「函館山」が現れる。いく度帰郷しても、山の姿を見れば涙ぐんでしまう。

石川啄木や宮沢賢治は、岩手山を見上げて終生愛した。私が愛した函館山は見上げた山ではなく、遊び興じた裏山に近かった。幼年期から函館を離れた二十代まで数ヶ所転居をしたが、みな山すそであった。山は庭から続き、夏から秋にかけて、森にもぐり木の実を食べ、木から木へターザンごっこをした。
山を見上げ志を立てたのではなく、「ふるさとの山は楽しきかな」であった。

住んできた、どの家からも港が見えた。終日、青函連絡船を眺めた日もあった。舟の軌跡から本州を思った。父は山形衆、母は津軽衆で私は東北人の血続きになる。駅には津軽ナマリがあり、朝市には津軽リンゴが並んでいた。老母のナマリは今も消えていない。

函館山からの幾筋もの坂、連絡線、津軽海峡が私の「函館」になる。みごとな山からの夜景、官軍と幕軍が戦った五稜郭戦争、いくたの傑出した人物、みな誇れるものだが、私は「函館山」を血肉のように引いている。
本州を向いた山に、血が騒いでいた。

ふるさとは、記憶が埋まっているところだ。

よろこびも憎しみも、丸ごと埋まっている。駅に着くと私は「ただいま」という。
四十年を経たいまも、駅広場で深呼吸をする。すると、目の前の山が迫り出してくるように思える。
「ふるさとはありがたい」
啄木の心境だ。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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