第5回「愛の詩」

愛の詩賞

題名/掌の眠り
氏名/佐藤 朗子(神奈川県)


一人暮らし、九年目。
仕事、恋愛、一人暮らし。今ある全てのことに向かい合えなくなった。
明日が来るのが怖い。それは、小さいことの積み重なりで起きた歪。
仕事では、いつも謝っている気がする毎日。
恋人なのか、そうでないのか分からない関係。
でもしょうがない。「しょうがない」でやり過ごしてきた。
テレビの音に、全てが消えていく。
母に電話をした。
電話の私はいつも元気で、明るい。
その日も、その予定だった。
「元気だか?」
東北なまりの母の声。
「元気……」
じゃない、と心で言う。
「こっちも、みんな元気だよー」
底抜けに明るい声。
ははは、と笑ったら涙がでそうになった。
泣きそう。そう思ったら、
「……私、帰ってもイイかな」
不意にのどをついて出た。母は、無言だった。
母は私が上京するのは反対だった。私は、それを押し切ってここにいる。
情けない。
「私、しんどくなっちゃって。なんかいろいろ……」
初めて弱音を吐いた。言ったら、涙がどうどう流れた。
母はまだ無言。あきれているのかな。
寂しさがどぶん、と押し寄せて部屋ごと飲み込んだ気がした。
「おめはんの、いいと思うようにしあんせ。家はここにあるはんて」
やっと出た母の声は、泣いていた。
私は、その言葉に、わんわん泣いた。まるで小学生くらいの子供のように、
ひっくひっくと、息が苦しくなるほど。
「家はここにある」母の言葉は、寂しさの波にさらわれた私をいとも簡単に救った。
その日の夜、母の掌で眠る夢をみた。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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