第4回「愛の詩」

佳作

題名/橋
氏名/田村 有(北海道)


橋の向こうの町に、母が六十五歳まで働いていた鉄工場がある。
いま、時給六百円で、私もそこで働いている。
むかし、
「もう、ここでええよ、気いつけて帰り。」
握っていた私の手をほどいて、母はさっさと橋を渡り、工場の角に消えていった。
泣きたいのをこらえ、スキップで家にもどる。
ちゃぶ台に、おやつと、ひるごはん。
童謡を歌って、見あきた絵本をながめていた。
雨の日は、窓ガラスに頬をつけて待ち、晴れの日は、橋のたもとまで迎えに行く。
金物の匂いのする作業服にすがると
「さびしいことなかったか、えらかったな。」
と頭を撫でてくれた。
むっつ、一年生にあがる前の年だった。
あの頃、母が歩いた橋を、自転車で走り抜け、ときどき止まって、川の流れに話しかけてみる。
「わたし、かあさんにいっぱい反抗したなあ、働くばかりで、なーんにもいいことがないのにだまって笑っていたかあさん。ごめんな、かあさん。」
今なら、湯治もしてもらえるし、眼鏡もお洒落なのを買ってあげられるのに。
何もさせてもらえんとこへいってしまった。
近いうち、母のふるさとへ行こう。死ぬまで、くに訛りの抜けなかった母の写真をだいて。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

Page Top