第4回「愛の詩」

愛の詩賞

題名/父へ
氏名/長田 智子(兵庫県)


七年前、突然母が亡くなった。あっけない死だった。残された父は、ぼうぜんとして周囲を心配させたが、四十九日の頃には気をとりなおし、
「家事はひととおりできるし、ご飯は外で食べたり作ったりするから大丈夫や。」
と頼もしい言葉にホッとして、七十歳すぎの父の一人暮らしがはじまった。
冬のある日、久しぶりの主人の出張なので、父のところに泊まって何かおいしいものを作ってあげようと、実家のドアを開けた。人気のない部屋は底冷えがして、母のいつもいた台所が淋しかった。こんな部屋に一人ぼっちで帰ってくるのか・・・お父ちゃん。
ツーンとなった鼻をかんだ。よーし、今夜はお母ちゃんの得意やった魚すきを作ろう。
やがて玄関のドアがあいた。父だ。
「おかえり。」
「ああ、ただいま。」
といってから父は、ハッと顔をあげ私の顔を見た。
「どないしたん?。」
「いや、声がなあ、そっくりでな・・。」
父の声がふるえていた。
私は自分の目にあふれてきたものをふりはらうように、
「さあさあ、お父ちゃん、今日はごちそうやで、食べよ、食べよ。」
母のように明るく笑って、父の手をひっぱった。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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