第3回「愛の詩」

佳作

題名/小さな歓び(亡き母へ)
氏名/峰 水明(神奈川県)


植物人間の母を看病するというと、何か暗いイメージがあるが、看病生活の中にも時々、小さな楽しみがある。それはこんな時だった。朝、大部屋のベットの下で目をさますと、私は蒸らした暖かいタオルで母の無表情な顔をふいていく。それから寝間着をはだけ、首、胸、そして脇腹とふいていく。すると突然母が叫び出す。体の一部を刺激されて意識が回復したのか、
「あーあーうー」
という言葉にならない叫びだ。私も聞こえる方の耳元に
「おーーーい」
と叫んでみる。母はうれしそうに
「あーあーうーうー」
と返事をする。その叫びは相変わらず言葉になっていないが、私に向かって何かを言おうとし、一生懸命叫んでいる。目はいつもぼんやり死んでいたのに、今、なぜか輝いている。生まれたばかりの赤ん坊のように目が澄んでいる。
45歳の私は病室中に響く大声で叫ぶ。
「かあちゃーーーん。おれだよーーー。わかんべーーー。」
すると母は
「あーーあーー」
とうれしそうに答え、2、3回うなずく。そして私の方を見ながら、静かにほほえんでいる。私も母の目を見ながら静かにほほえんでいる。
こんなひとときが私と母との間で時々あった。それは長い看病生活の中で、二人の小さな楽しみというか、小さな歓びだった。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

Page Top