第3回「愛の詩」

優秀賞

題名/心残り
氏名/田中 みどり(茨城県)


父さんには最後まで言えなかったけど、どうしても謝りたい事があります。
それは父さんのために上手な嘘がつけなかった事です。検査のためという名目で入院したあの日、まるで父さんに残された時間のカウントダウンが始まったようでとても悲しかった。でも同時に「これは何かの間違いであってほしい。」心の中で必死にそう叫んでいました。病室では銘々が自分のテレビを持ち込んで枕元に置いていました。それまで大のテレビ好きだった父さんに、
「テレビ持って来るから。」
と言ったら、
「すぐに帰れるんだからいらないよ。」
そう断られましたね。検査が終わればすぐに家に帰れる、そう信じきっている父さんに上手な嘘が見つからなくて、それ以上何も言えませんでした。「俺は悪い病気で、入院が長びくのか。」父さんそう悟られるのが、ただただ恐かったんです。
でも大好きな相撲だけは向いの人のベッドの脇で見せてもらっていましたね。
あの時の父さんの遠慮したその背中が切なくて、涙が出そうになりました。
もっと父さんの身になって、逃げずに必死で向き合っていたら、あんな肩身の狭い思いをさせずに済んだのに、いくら悔やんでも悔やみきれません。冷たくなった父さんは、あれほど帰りたがっていた家でゆっくり休むと、一人静かに旅立って行きましたね。あの大雪の日から7年、夢の中の父さんはいつもにこにこ笑っているだけです。でもどうしても聞きたいんです。
こんな私、許してくれますか。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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