第2回「愛の詩」

佳作

題名/父へ
氏名/蒼井 廩(神奈川県)


桃の季節に想い出す。
昔、父と過ごした家の庭にあった桃の木の事。
そして、父の事。
私は、父子家庭で育った。何かに不自由した思い出はないけれど。
他のみんなが持っているモノを持っていないような、そんな引け目や、寂しい気持ちが
父への反抗心となっていた。
まだ、小学生だった頃、冷蔵庫で冷たく冷えた桃が何より好きだった父の喜ぶ顔が
見たくて、自分のお小遣いで桃を買った。
父は嬉しそうに桃をほおばり、その種を庭にうめたっけ。
その種が芽を出して、どんどん大きくなっていった。
けれど、桃の木は花を付けることはなかった。毎年あざやかな緑の葉だけが、私や
父の目を楽しませた。
ある日、あせもが出来て痒がる私に、父は桃の葉をせんじてお薬をこさえた。実だ
けじゃなく、葉っぱまで役に立つ桃を私は好きになり大事に育てた。
桃に花がついた頃、私も中学生になっていた。その頃から父を避けるようになり、ろ
くに話をする事もなく社会にでてしまった気がする。
社会人になって初めての夏、父から無骨な桃が送られてきた。庭の桃が実を付けた
と。なぜか涙が止まらなかった。
後にも先にも父からは何の連絡もなかった。きっと心配させたくなかったのだろう。
あっけなく亡くなってしまった。
知っていたら……。今になってわかる事、たくさんある。父がどんな思いで私を育て
てくれたか、どんなに大変だったか。死に際も看取る事ができなくてごめんなさい。
たくさんの優しさに包まれていたあの頃、もっと素直に思っていた事が言えたら。
ありがとう。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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