第2回「愛の詩」

優秀賞

題名/小さな長靴
氏名/今野 芳彦(秋田県)


今年は冬が早く、もう雪が降りてきた。

数年前、都会に夢を抱いた娘は、雪の中に大きく手を広げ、この中に青い鳥を掴む
んだと親の反対を押し切り、田舎を飛び出した。その娘から「都会に疲れた。帰ってい
い。」と女房に電話があったらしい。失った物も、掴めぬ物も多すぎたはずの都会だ。

女房から「ええか、父ちゃん。けえって来てもなんも言うなよ、なんも問うなよ。」と釘
を刺されている。「さぶかったべえ、寒いべえ、さ、さ、ながさ入れ。」女房の声が玄関
に響く。「けえって来たか。」俺はそおっと納屋から覗く。

今、降ったばかりの雪の中に大きな足跡と小さな足跡が残っている。何て声を掛け
たらいいもんか、すると女房が「父ちゃん、明日、小さな可愛い長靴買いに行かねば
なんねえね。」と俺に無理やり子供をよこした。「ん、んだなあ。」と答える。腕の中にい
るこれが我が家の孫。この温もり、壊れそうな手、足、めんこい、めんこすぎる。

その背中越しに「お父さん、御免。」と娘。俺は不覚にも、さすっていた紅葉の手に落
とした滴をそっと隠す。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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