第1回「愛の詩」

優秀賞

題名/故郷
氏名/藤本 英雄


「兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川 夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷」

私が生まれ育ったころの北条は、この詩の世界そのものだった。

お盆の頃になると、水田の潅漑用水路に、孵化したばかりの鮒の稚魚が群れをなして泳いでいた。透明な身体に、黒い目玉だけが異常に大きい小鮒を手で掬うことさえできた。

秋になり、黄金色の稲穂がたわわに実ると、放水された田の泥の中からまるまると太ったドジョウが顔を出していた。

当時、農作業を人力に頼っていたので、子供も貴重な労働源だった。一日の仕事を終えて、農具を肩にかつぎ祖父母と、夜露にしっとり濡れたあぜ道を家路に向かうころには、満天に星がきらめいていた。

きのこ採りも秋の楽しみの一つだった。現在、加西市民病院がある通称「あかやま」には潅木が生い茂りいろいろなきのこが採れた。

茨の刺で顔や手足を傷つけながら急斜面をよじ登り、木の葉の下に、木々の根元に、きのこを見つけた時のあのぞくぞくとするような興奮。あれから何十年経った今も忘れない。祖母が兎をつかまえたのもあのあたりの茂みだった。

「故郷は遠くにありて思うもの」と言うが、年齢と共に、懐郷の思慕が強くなるのはどうしてであろうか。

この春、北条の節句にはぜひ帰りたいと思う。絢爛豪華な屋台車に乗って宮入りした少年の日の感激をもう一度味わうために。

 

問合先 ふるさと創造部 人権推進課
TEL:0790-42-8727 FAX:0790-43-1380 mail:jinken@city.kasai.lg.jp

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